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日記の・ようなものです

9月16日 名前のついていない「特別」という感情

数日前、配偶者と「アメトークの『〇〇芸人』みたいに何かについて語る場があったとしたら、何について語る?」という話をし(楽しかったです)、わたしは好きな映画や漫画、アイドルなんかを挙げました。その後、浴槽に浸かりながら、「語れると言ったけれど、いざ話すとなると自分が感じている魅力をうまく言語化できるだろうか」と疑問を抱いたので、今日はここで試してみようと思います。

語りたいのは、『あちらこちらぼくら』という、ジャンルで言えばBLに分類される漫画についてです。上下巻で、現在続編が連載中です。

↓続編

わたしは漫画なら何でも読むという感じで、BLや百合に分類されている漫画も結構読みます。BLは煽情的なシーンが多く、その面を全面に押し出している作品が目立ちますが、BLレーベルから出ている作品でも、エロを押し出すことなく心情の描写に重きを置いた良作があって、特にそのような作品を好んで読んでいます。『あちらこちらぼくら』もそんな作品です。

『あちらこちらぼくら』の好きなところは、メインとなるふたりの関係を、はじめから恋愛ありきのものとして描いていないところです。恋愛関係に発展していく様や、恋愛関係になってからの様子を描く作品が多いなか、『あちらこちらぼくら』は恋愛でも友情でもない、ただ相手を特別だと思う、はっきりとした名前のついていない感情を描くのに終始しています(下巻末で恋愛に発展したような描写はありますが、明言はされていません)。同じ高校に通うふたりが出会い、相手のことを知っていく、そして次第に相手を「特別」に思うようになっていく。しかし、その感情を恋だとはふたり自身も思いませんし、そのように明言する描写はなされません。友情と呼ぶのもしっくりこない、けれども恋愛と呼ぶのも何か違う、その間ともいえるような、ただ相手を「特別」だと思う気持ち、それを描いているのが本作です。

自分の気持ちがうまく整理できなくて、「これってどういう感情なんだろう?」と考えることってあるじゃないですか。そういう時、自分の気持ちを理解するために、既に名前のある感情に当てはめて考えてみる人は多いのではないかと思います。「これは恋かな?それとも友情かな?」みたいな感じで。でも、もしかするとその感情は、まだ恋とか友情とかいう言葉になっていない感情かもしれない。そんな風に、既にある言葉の枠組みに収まらない感情って、まだまだあるのではないかと思うんです。『あちらこちらぼくら』は、そんな名前のついていない「特別」としか言えないような感情を、厚めのコミック2冊分の紙幅でたっぷりと描いている。そこが素晴らしいし、他の作品と違う部分だと思います。エロだったり、奇抜な設定だったり、そういう良くも悪くも劇的で分かりやすいキャッチ―な要素がないBLでも、良いものはちゃんと売れるんだなと、個人的には希望を持てた作品でもあります。

ちなみに、恋愛関係になるわけではないので、BLで描かれがちな肉体関係をふたりが持つこともなく、そういったシーンが苦手な人も全然読める作品です(恋愛については続編で描かれるので、続編にはそのようなシーンもあります)。

全然うまく魅力を伝えられていないと思いますが……、ぜひ読んでみてほしいです。それでは今日はこの辺りで。