mn'95blog

日記の・ようなものです

爪を塗ってあげるよ

ちょっと前に、いや、もう結構前かもしれないけれどTwitterで「#私を構成する9枚」とか言って自分を今の自分たらしめた要素のひとつとして、アルバムを紹介するのが流行った。本とか漫画とか、映画バージョンもあったように思う。わたしにとってそんな、バイブルとも呼ぶべき作品は何かあるだろうかと考えると真っ先に浮かぶのが、小学生の頃手に取ったあさのあつこの『ガールズ・ブルー』『ガールズ・ブルーⅡ』。

平成7年生まれなわたし世代は、小学生の頃あさのあつこを読んでいる子が結構多かったように思う。その代表格が『バッテリー』シリーズで、わたしもそこからハマった。あとは『THE MANZAI』シリーズとか。父に買ってもらっては、その日のうちに読んでしまっていたのが懐かしい。そんな流れで『ガールズ・ブルー』にも出会った。

憧れがあったんだと思う。主人公の理穂はキラキラした高校生で、地味で真面目で大人しかったわたしとは真逆でおしゃれに自由に人生を謳歌しているカンジが眩しかったし、そんな生き方自分はできないと思っていたから尚更惹かれた。自分の周りにはいない、凛々しくてでも儚い美咲。幼なじみの名前は如月と睦月。恋人のような里穂の両親。犬。カラス。どれもちょっと切なくてまばゆかった。

なかでも特によく思い出すのは、『ガールズ・ブルーⅡ』で病室で横たわる美咲の爪に、理穂がピンク色のマニキュアを塗るシーン。片方の手は桜貝の色に、もう片方はサーモンピンクに。弱って消えそうな美咲に、理穂はこんなの美咲じゃないよ美咲はもっと強いんだとまるで祈りのように何かの儀式のように爪を塗る。ベットに横たわりチューブに繋がれた友だちに唯一できること、それが爪をピンク色にしてあげることだというのは、なんとも理穂らしい発想だし、どんな言葉より贈り物より素敵だと12歳のわたしは思った。今も、このシーンが大好きで、わたしはこのシーンのことを思って自分の爪を塗る。祈るように爪を塗る。美咲は、病気の時はすべてがモノクロに見えるけれどそのなかでもピンク色の爪だけは色褪せなかったと言う。わたしもちょっとその気持ちが分かる。後から自分の爪を眺めると、ちょっと汚いセルフネイルでも、それでもなんだかそこだけパートカラーの映画みたいに鮮やかに見える。気持ちがすっと上向きになる。仕事でどんなにヘトヘトでも、何にもする気が起こらないくらい鬱々とした休日でも、爪を見るとちょっとだけ気分が晴れる。爪に色があるだけで、明るくなれるなんて素敵じゃないか。そんなときめきを教えてくれたのは間違いなく『ガールズ・ブルー』だった。

ただ、そのときめきが自分のものとなったのはつい最近だ。わたしが爪を塗るようになったのは、本当にここ数年のことで、それこそ、服や化粧で気持ちを上げることができると知ったのもつい最近のこと。そう思うと、それまでのわたしは気分が沈んでそのまま溶けてなくなってしまいたくなった時、どうしてたんだろうと思う。どうもできずベッドの上で死んだように横たわっていたんだろうか。昔のわたしに会えるなら、だらりと下がったその手の先に色を塗ってあげたい。ピンクやオレンジやミントグリーンやとにかく綺麗な色でその爪を塗ってあげたい。元気が出るように、塗ってあげたい。